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スペシャル対談精子と卵子の「老化」には、正しい情報を味方に
岡田 弘 (泌尿器科医)×河合 蘭(ジャーナリスト)

マスコミで取り上げられ、多くの女性に衝撃を与えた“卵子の老化”。
やみくもに不安になる前に真の情報を知って欲しいと『卵子老化の真実』を上梓したジャーナリストの河合 蘭さん。
「精子力」をはじめ、男性不妊の真実を伝える岡田 弘との対談が実現。
男女の妊娠力、最新の精子の研究、そしてカップルの意識のギャップ・・・。
さらに、次世代に伝えたいことへと話題が広がった。

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産婦人科受診では教えてくれない男性不妊の新常識

岡田 河合さんにお会いするのを楽しみにしていました。『卵子老化の真実』(文春新書)は、豊富なデータを用いて、大変参考になります。付箋をたくさん付けて読んでいます。


河合 ありがとうございます。岡田先生が一体どこに付箋をつけておられるのかは興味津々です。
私も岡田先生のご著書『男を維持する「精子力」』(ブックマン社)は、まずタイトルから興味深く拝見しました。精子が卵子と受精する能力、私はこれを「精子の妊娠力」と表現していたのですが、どうもしっくり来なくて「精子力」という言葉に、なるほど!と納得しました。


岡田 ぜひ、この言葉を広げてください。


河合 はい。こちら獨協医科大学越谷病院(埼玉県越谷市)には、遠方からも患者さんが受診されると聞きました。


岡田 ええ、とくに非閉塞性無精子症の治療法であるMD-TESE(顕微鏡下精巣精子採取法)の手術数が多くて、現在日本で行われているMD-TESEの半数近くを担っています。患者さんは全国からやって来ますし、「帰国時に手術を受けたい」と海外駐在中の方に連絡をいただくこともありますよ。


河合 皆さん、本当に切実な思いをもってここに来院されるのですね。


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岡田 詳しく検査をする、手術をするなど、目的や理由があれば、距離は関係なく受診されます。一方、初めて検査を受ける場合は、アクセスしやすい施設がいいもの。そこで、こちらから不妊クリニックに出向いて「男性不妊外来」を担当していますが、これは神戸大学医学部泌尿器科にいた20年以上前から取り組んでいます。


河合 岡田先生は約30年、男性不妊治療の最前線に立ってこられて今回一般向けの本を書かれたのは、どんな動機がおありになったのですか?


岡田 世に蔓延する男性不妊の情報は、不確かで無責任な内容が多く、患者さんはなかなか正しい情報にたどり着けません。回り道をしているうちに、治療や妊娠の機会を逃してしまうのは非常に残念なこと。情報があふれる現代だからこそ、目利きによって取捨選択された、つまりキュレーションのきいた情報の提供が必要だと感じたのです。


河合 やはり、そうなのですね。私も、なぜか生殖という分野は都市伝説と言うか誤解がとても多い分野だと思います。これは、若い時に産み終える時代にはそんなに大きな害はなかったと思うのですが、昨今のように晩婚化が進むと「産めるか産めないか」の分かれ道になってしまうこともあり得ますね。ただ、そうした誤解は長い間信じられてきたものですから、誤解をといてもらうには文献の裏付けも求められます。


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岡田 ええ、データによる裏付けは必須と考えています。
本サイト『男性不妊バイブル』でも、ブログで様々な情報を紹介しています。ぜひ参考にして欲しいですね。


河合 これまで精子の正しい情報が伝わらなかったのは、取材をする人間にも責任があったと思います。長年、産婦人科の先生しか取材してこなかったので。
私も、お恥ずかしいことに、男性不妊の専門医の先生とお話するようになったのは最近です。『卵子老化の真実』の取材をしている間に何人かの先生と接するようになって、本当に驚くことがたくさんありました。
例えば産婦人科では、元気な精子のためには「禁欲期間を3日くらいとってください」と言われることが多いのですが、男性不妊の先生たちは「1〜2日でいい」と言ってくれたのでとてもよかったです。


岡田 セックスをしなくても、射精は頻繁にしたほうがいいんですよ。泌尿器科では常識ですが、残念ながら産婦人科ではまだまだ知られていないようです。


河合 また、不妊治療の専門クリニックはどこも「夫婦で来院を」とすすめてはいるものの多くの医師は「男性の検査は精液検査だけだから」と言います。
これは「男性の負担は軽いから嫌がらずに来てください」と、受診の敷居を低くするための言葉でもあるのでしょうが。


岡田 もちろんそうでしょうが、同時に多くの産婦人科では「それしかできない」ということでもあります。


河合 産婦人科によっては精液検査をするけれど、数字が悪かったときには女性がステップアップをするだけ、というケースもあるようです。
男性には「精巣の温度が上がらないように」などの日常生活の注意なども、あまり行われていないようですね。


岡田 しかも検査の結果(精液所見)は、そのときによって変化する。検査結果がよくない場合は、2度、3度と検査を繰り返すべきで、それでも思わしくなければ泌尿器科、中でも生殖医療専門医への受診をおすすめします。


■ 用語解説

・MD-TESE(Microdissection TESE/顕微鏡下精巣精子採取法)
精巣の中にある精細管から、手術用顕微鏡を使って精子を見つけ出す方法。この治療法により、原因がわからない特発性造精機能障害やクラインフェルター症候群、がんの化学療法をした無精子症の人などに、子どもを持つ可能性が広がった。

河合 蘭さん プロフィール

img_01_profile 河合 蘭(かわい らん)
出産、不妊治療、新生児医療の現場を取材してきた、日本で唯一の出産専門フリージャーナリスト。1959年東京生まれ。カメラマンとして活動したのち、1986年より執筆活動を始める。国立大学法人東京医科歯科大学、聖路加看護大学大学院、茨城県立医療大学、日本赤十字社助産師学校非常勤講師。
著書に『未妊−「産む」と決められない』(NHK出版)、『安全なお産、安心なお産−「つながり」で築く、壊れない医療』(岩波書店)など。
http://www.kawairan.com/icoblank

『卵子老化の真実』(河合 蘭著、文春新書)
「本当のところ、何歳まで産めるの?」という今や誰もが抱く疑問にていねいに回答。
妊娠力の低下や不妊治療、出生前診断、ハイリスク妊娠、産後の疲労や育児などについて真相を徹底取材し、30代以降に妊娠する人を応援する一冊。韓国でも翻訳版刊行が決定。
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